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『地図のない旅なんて!』大沼一雄著・東洋書店

地図のない旅なんて!

 著者は元高校の先生。地図を活用するといかに魅力的な旅になるかということを説く。そもそも、鉄道や道路、集落などは、最初から偶然そこにあるのではなく、その土地の人々の生活の積み重ねの上に形成されていったものだ。地図を「読む」ことで、現地の地形や景色だけではなく、その土地に刻み込まれた“人々の暮らし”や“文化”を読み解く楽しみがでてくる。

“島民はどんな生活をしているか……海辺近くに住んでいないので漁業中心の暮らしではないと思われる。とはいっても耕地はごく一部に桑畑が見られるだけで、畑らしいところは、ほとんど見当たらない。島全体が樹木に覆われている。南の特定地区界で囲まれた中が放牧地なので、牧畜業が中心なのか……放牧場の南に養殖場がある。どんな水産物が育てられているのだろう”という具合。

 これにさらに、古い地図と対比することで、町や産業の盛衰と絡んだその土地の移り変わりがわかる。地図はさながら土地情報の宝庫、町の風土記というわけだ。


 しかし、この本がただの旅行本にとどまらないのは、あとがきや本文の随所で語られる「旅の準備」、というより「人生設計」についてのノウハウである。そこにはいかにして旅行資金を捻出するかという知恵が縷々記されている。
“年金の方はすべて生活資金に回すので、手をつけるわけにはいかない”“5年前に自由金利の大口定期で年利8%であったものが、なんと今では0.4%なのである。年金生活者にとってこれほど大きな痛手はない”ので“これまで二日に一度の買い出しを週に一度に切り換えた”云々。
 なんか最後は株の話にまでなっている。こうしてつくりだした予算で、長くて1〜2カ月、普通で2〜3週間の旅を年に3〜4回楽しむというのである。

 世に「旅行ライター」は掃いて捨てるほどいるが、旅行費用の捻出の仕方をこれだけ語れる者は一体いかほどいるだろうか。自腹を切って旅をする人間だけが書ける技術論である。著者のように退職を迎えた人のみならず、学生など時間に余裕のある人、若い身空で老後の人生設計などをぼんやり考えている人には一読をお勧めする。


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