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寄生虫、その知恵と工夫の集積 目黒寄生虫館(東京都) |
![]() 館内には、長さ8.8mものサナダムシの標本や、イルカの内蔵からあふれんばかりのアニサキスのホルマリン漬けなどが、ずらりとならび、怖い者見たさのカップルに格好のデートコースを提供している。 |
だが、その実、ここに展示されているのは、寄生虫と呼ばれている生き物たちが生き延びるための素晴らしい知恵と工夫である。とかく「寄生虫」というと生き物のクズ、みたいな印象を与えられがちだが、この虫たちとて、生まれながらにしてそこにいたわけではない。 |
一口に「食べられて寄生する」といっても、骨をも溶かす強力な消化液の攻撃に耐え、自分が寄生する腸などの器官にたどり着かなければならない。そして到着するや否や適応するためにすかさず変形する。その宿主が外敵に食べられると、また消化液の攻撃である。それを防ぎつつ、前回と違ったタイプに変形して寄生する。いくつもの宿主を渡り歩くものは、これを何度も繰り返して成長していく。また、あるものは終宿主にとりつくため、終宿主の餌そっくりの動きまでもして、食べられようとする。ロイコクロリジウムの幼虫は、宿主であるカタツムリの触覚に入り込み、イモムシのような動きをする。次なる宿主である鳥に、カタツムリを襲わせるためである。アジギアの幼虫は自らをゲラチン質で包み、水中でボウフラそっくりに動く。もちろん、今度の宿主の魚に食われようとして、である。 このような苦労を積み重ねつつ、ついには宿主の体を我が住処とする。すさまじいまでの「生」への努力である。手間を考えると、自分でエサとったほうが早いんじゃないかとすら思えてくる。 |
まるで「生き物地球紀行」のサケの回遊を見るがごとき感動を与えてくれる博物館であるが、ここは別にたわむれや客寄せで寄生虫を集めだしたわけではない。目黒寄生虫館が開館したのは1953(昭和28)年。この年は「寄生虫予防月間」がはじめて定められ、また各地で日本住血吸虫の掃討作戦が展開されていたりと、寄生虫対策が深刻だった。農薬と化学肥料をばんばん使った「清浄野菜」なる野菜が“寄生虫に感染しない”と、もてはやされた時期である。 そのような時代に各地の寄生虫の標本を集めデータを蓄積して、人間にとっての“敵”を知ることは相当な意味を持っていた。 |
その科学的な姿勢は現在も続いており、最近では寄生虫を利用した生物分布の推定が注目を集めているという。一例として、サンマについている寄生虫の出現状況から、サンマの群の分布と回遊が判明したことを説明するパネルが「寄生虫付きのサンマの標本」とともに展示されている。また、深海にいる魚から、表層にしかいない寄生虫が見つかれば、その魚が深海と表層を回遊していることがわかるといった例もあげられ、じつにアカデミックな刺激に満ちている。 人間には、この“敵”であり“クズ”であるはずの生物から学びとらねばならないことが、まだまだ多いようだ。 |
全動物の6%を占め、総数7万種にも及ぶという寄生虫。世界各地から食材が届き、また世界の果てまで行って食事をするようになった現在、いつまた“新種”が出現するかわからない。だからこそここは、とことん必要性に裏打ちされた博物館なのである。私が寄生虫だったら、まずここを襲撃することだろう。 |
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目黒寄生虫館 ■住所 東京都目黒区下目黒4-1-1 ■TEL03-3716-1264 ■開館 10:00〜17:00/月曜、年末年始休館 ■入館料 無料 ■交通 JR山手線目黒駅より徒歩15分 |
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