[TOPMUSEUMAREA
古墳の丘にゼリーフライを訪ねて
さきたま風土記の丘をゆく(埼玉県)

二子山古墳

 埼玉県行田(ぎょうだ)市といえば、稲荷山古墳の鉄剣が名物である。古墳から出土した5世紀頃の鉄剣に“雄略天皇”の名が書かれていたことから、当時の大和朝廷の影響が地方にまで及んでいたことを示す貴重な資料となった。9基の大型古墳が密集している稲荷山古墳の一帯は、現在、さきたま風土記の丘として遊歩道や博物館が整備されている。

 だが、行田市にはもう1つの名物がある。それが、“ゼリーフライ”なる食べ物だ。
 “ゼリーフライ”とは、その名前から想像がつくように、ゼリーをころもでまぶして揚げ、サクッとかじるとあま〜いゼリーがとろ〜りと……などというようなものではない。じゃがいも、おから、小麦粉にネギやニンジンを入れて練り上げ、油で揚げたもので、1個100円程度。

 宇都宮名物の餃子は、戦後、中国からの引き揚げ者によって広まったといわれているが、“ゼリーフライ”は日露戦争の時に中国から渡来したそうだ。中国の野菜饅頭をより手軽にアレンジしたものだという。現在、行田にだけ残っているところを見ると、“地域固有種”といえようか。
 それにしても、一体、このコロッケ状の物体がなぜ“ゼリーフライ”と呼ばれているのか――。そのことを語る前に、やはり行田名物の“フライ”なる食べ物について触れなければならない。


行田駅前観光案内所

 上野から高崎線普通列車で1時間。行田の駅前に降り立つとめぼしい建物はなにもない。行田の中心街は、ここから数km離れた秩父鉄道羽生線の行田市駅なのだから、この閑散ぐあいも仕方のないことなのであるが、その割には、やけに立派な「観光案内所」(←写真)が建っている。中で配られているものは、稲荷山古墳をはじめとする「さきたま風土記の丘」のパンフレット。そして、行田市内の「フライ&ゼリーフライマップ」である。
 このことからも、この食べ物が行田の風土の一翼を担っていることがよくわかる。マップを見ると、ゼリーフライの店もフライの店も、古墳群の周辺を含め市内各所に点在している。

 駅からタクシーに乗り「さきたま風土記の丘」に乗り付ける。あたりは、忍川に沿ってのどかな田園地帯が広がっており、畑地と住宅地の間にぽこぽこと小さな丘が並ぶ。これが関東地方屈指の古墳群なのだ。
 稲荷山古墳をはじめ、登り降りできる古墳もあるので、まずは墳丘に登って古墳群の全体像を把握。県道に沿って、「フライ」「ゼリーフライ」といった看板が散見されるが、ひとまず、風土記の丘併設の「さきたま資料館」へ。入場50円というリーズナブルなお値段のこの資料館は、大きく2つのエリアに分かれていて、右が古墳ゾーン、左が近世以降の郷土ゾーンになっている。もちろん、かの有名な鉄剣は、右の古墳ゾーンで厳重な警備のもと展示されている。
 郷土ゾーンでは、北武蔵の水田用具や畑作用具が並ぶ。年輩の一行が懐かしみながら、農具の使い方をしゃべりあっている。この地域は、古くから米麦の二毛作地帯だったので、麦作りの農具なども並んでいる。この麦作がさかんだったことが、行田に独自の“フライ”を生み出した。

さきたま資料館
行田名物!フライ  そもそも行田でいう“フライ”とは、小麦粉を水で溶き、肉やネギなどを入れて薄く焼き上げるという食べ物である。我々の「フライ=揚げ物」という概念を覆すのに十分な一品だ。
 資料館を見学後、県道沿いの手近な店に入り、早速その“フライ”を頼む。

 おじいちゃんの店主が、嬉々として注文を受け、フライパンを軽やかに動かす。出てきた“フライ”は、見た目はお好み焼きだが、口に含むと、もちっとした食感がある。小麦の量が違うのだろうか。
 中にキャベツではなくネギが入っており、また、ウスターソースで味付けされているところが、お好み焼きとはちょっと違う。このもちもちの食感とシャキシャキッとしたネギの歯ごたえのハーモニーを楽しむのが、お好み焼きにはない醍醐味なのか!

 しかし、群馬出身の弊社特派員に言わせると群馬県藤岡市のスーパー「ユニー」で売っているお好み焼きはまさにコレだという。新たな味覚を求めてやってきたところが、懐かしい味に出会ってしまい、なんとも複雑な表情。地域固有種の“フライ”が、藤岡では“お好み焼き”と名を変えて、亜種として生き延びているようだ。

 ちょいと脂っこいのもあって、部活帰りの中高生たちが食べるのによさそう。1枚350円。
 引き続き、“ゼリーフライ”に挑戦する。


NEXT