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今太閤が夢の跡 田中角栄記念館(新潟県) |
松本幸四郎を、松たか子の父と説明した方が話が早いように、すでにこの人もそうなってしまったであろうか、新潟にある「田中角栄記念館」のことである。田中角栄は第64・65代内閣総理大臣(1972〜74年)、田中真紀子の父である。新潟県刈羽郡二田村(現・西山町)に生まれ、小学校高等科を卒業後、上京。苦学して土建会社から身を起こし、1972(昭和47)年に内閣総理大臣にまで登り詰めたときは、秀吉になぞらえて「今太閤」と呼ばれた。典型的な利権誘導型政治家で、コンピューター付きブルドーザーなどと呼ばれていたが、黒い噂も絶えず、土地転がしと裏金づくりを『文藝春秋』で立花隆に痛打されて総理を辞任したのは有名な話。 ただ、彼の真骨頂は辞任してから後にある。普通ならそこで政治生命を絶たれるものを、自らの派閥を率いてキングメーカーとして君臨した。1983(昭和58)年にロッキード事件の第1審で有罪判決を受け、裁判所から目白の邸宅へ帰った時、竹下登、橋本龍太郎、小淵恵三、小沢一郎といった、のちの総理・幹部クラスの“子分”がずらりと勢揃いしてお出迎えしていることからも、その“力”がわかろうというもの。 |
後半生、汚職と利権の代名詞のように言われた彼でも、ずば抜けて人気の高い地域というのが2か所ある。ひとつは中国である。 総理就任後、自民党内に多い親・台湾派の反対を押し切って日中国交正常化を成し遂げたことから、中国共産党の指導部からの信頼は厚かった。周恩来首相は「水を飲むときは井戸を掘った人々のことを忘れない」という中国の古い諺を引用しながら、田中を含め日中国交正常化に尽力した人々を讃えたし、政治汚職の元凶として田中が叩かれていた1978(昭和53)年に来日したトウ小平副首相は田中の私邸を表敬訪問し、「中国に招待したい」と申し出ている。 もうひとつは故郷の新潟県西山町。この西山町に「田中角栄記念館」が建っている。柏崎からJR越後線に乗り換え「礼拝」という駅で降りる。駅名はどこか宗教的だが、駅自体はホーム1本だけのただのローカルな無人駅だ。ここからタクシーをとばして10分ほどの、国道と高速道路に挟まれた丘に記念館が建つ。 |
道の駅に併設されていることもあって、個人記念館にもかかわらず、立ち寄る人は意外と多い。ホールでは田中のインタビュー映像が流されている。郷里について語るとき、良寛についてふれ、さらには地元のお寺を指折り数え上げていく(ここら辺の親近感のわかせ方は、政治家としてさすがにうまい)。見れば、前の席に座った初老の婦人は、「そうねそうね」と相槌を打つように頷いている。「おー、先生の若い頃の写真だ」わいわいと入ってきた4、5人の一団は、大きく引き延ばされた田中の写真を見て、うれしそうに声を出した。ここではまだ、すっと“先生”という言葉が出てくるのだ。都市の無党派層的生活に慣れきった身には新鮮に感じる。 館内には愛用品や遺墨、時代の節目節目の写真が展示してある。BGMは1972(昭和47)年の自民党総裁選で福田赳夫を破って総裁に就任した時の“演説”だ。田中真紀子と一緒に写った若き日の家族写真もある。 と、こう書いていると、地元密着型のなごやかな個人記念館なのだが、どうも時々、ぴーんとした空気を感じる。それは所々に立って、険しい表情で館内に視線をとばしている係員たちの存在だ。館内は、写真撮影や録音は厳禁。壁には「館内を撮影した場合はフィルムを没収します」という大きな張り紙で、異様なまでの警戒ぶりである。 |
門閥・学閥のない田中は、土建業を礎に独自の資金源を持ち、カネを集めてはバラまくという手法を駆使して成り上がってきた。それが故に、ロッキードだ闇将軍だ金権政治だとさんざん叩かれることにもなるのだが、“先生”と敬愛される一方で、撮影や録音にナーバスになるというのは、田中政治の持つ2面性を象徴しているといえるのかも知れない。さて、娘・真紀子は、ひところ、総理待望論が出るほど国民的人気があったが、その後の展開はご存じの通り。急上昇や急降下を繰り返すところまで父親譲りなのか。記念館の人たちの険しい表情は、まだ当分の間続きそうだ。 記念館に隣接して「西山ふるさと公苑」の中国風庭園「西遊園」が広がる(写真)。周恩来首相の生誕地でもある、中国・淮安市との友好締結を記念して造られた。もちろん、日中国交回復に貢献した功績のゆかりからである。 こちらの方は“撮影”を監視している様子はない。売店には中国茶や中華食材の類も並び、「遠くからわざわざ買いに来られる人もいるんですよ」と売店のおばちゃん。庭園には中国式の鐘や石像が点在している。只一つ、“井戸”がないのが惜しまれた。 |
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田中角栄記念館 ■住所 新潟県刈羽郡西山町大字坂田717-4 ■TEL0257-48-2130 ■入館料 大人400円(西山ふるさと公苑は無料) ■交通 JR越後線礼拝駅よりタクシー10分 |
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