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2万年の時の流れに「待った」をかける!? 箱根湿生花園(神奈川県) |
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箱根湯本駅を出た登山列車はほどなく、険しい崖にとりつく。わずか2両しかない列車の先頭と後ろで2m40cmもの高低差がつくという急勾配をぐいぐいと登っていく。 車窓の周囲は急峻な崖に取り囲まれ、松の木が生える岩肌には、温泉宿がへばりつくように建っている。下をのぞき込むと谷間に清流が流れ、まるで巨大な盆栽か箱庭のようだ。 登山列車が息を切らしながら登り終えた終着駅・強羅からバスに揺られること20分で、仙石原に着く。ここに高山植物の宝庫として知られた「箱根湿生花園」がある。 |
湿生花園の自慢はなんといっても植生の豊富さにある。入ってすぐにヒマラヤの青いケシが歓迎してくれる。1913(大正2)年にイギリスの探検家エリック・ベイリーが発見したもので、高地に似合いそうな薄青色の花だ。 広葉樹の林をぬけると「低層湿原」のコーナー。 “低層”とは“標高が低い”という意味ではなく、地面(泥炭地)が水面より低い――つまり池や沼の状態にある湿原のことをいう。湿原は、湖の水が減っていくところから始まり、沼状態の低層湿原になり、さらに泥炭が堆積していって高層湿原(地面が水面より高いことをいう。見た感じ稲刈りの終わった田んぼのよう)へと変遷し、最後、草木が生えて森林となって、その発達を終わる。つまりこの「低層湿原」は若い湿原ともいえる。 ここではクリンソウがサクラソウよりもちょっと濃い花をつけ、湖面をアサザの黄色い花が彩っている。 |
ついで「ヌマガヤ草原」のコーナー。ここはさっきの“低層”から“高層”へと湿原が発達していく中間段階なので、「中間湿原」ともいわれている。水も多からず少なからずでちょうどひたひた。ここは5月下旬から6月いっぱいは押すな押すなの大混雑になる。なぜならば、高山植物として人気の高いニッコウキスゲの開花期にあたるからだ。グリーンの草原と黄色の花とのコントラストが美しい。その間をイブキトラノオという白いネコジャラシみたいな花が揺れている。 ピークを過ぎ、ちょっとくたびれた感じのヒオウギアヤメが脇を固めている。このヒオウギアヤメ(開花期5月中〜6月上旬)と入れ替わるように咲き出すのが、ノハナショウブ(開花期6月中〜7月中旬)だ。 花菖蒲の原種で、この植物が自生していたために、仙石原の一部が1934(昭和9)年に国の天然記念物に指定されている。 「高山のお花畑」コーナーには各地の代表的な高山植物が集められている。本来、寒冷地に咲く花なので、北海道や富士山で夏に咲くものが、海抜650mの仙石原では、5〜6月にもう満開である。青紫のエゾルリソウやピンクのコマクサが岩場に点々としている。 |
最後に「高層湿原」のコーナー。尾瀬や北海道サロベツ原野など、高山や寒冷地に多い、ミズゴケを中心とした痩せた土地である。あいにくこの時期には見ものがない。どこから紛れ込んだか、ニッコウキスゲがぽつんと一株、頑張っている。尾瀬で有名になったミズバショウでも咲いていれば、また押すな押すなの騒ぎになるのだろうが、開花は4月いっぱいで終わってしまっている。 足早に通り過ぎる客の脇で、ミズバショウがその長い葉を見せて存在をアピールしていた。 |
実は、箱根の湿原は自然状態ではすでに末期にある。ここは2万年前でこそ、湖の底だったが、その後だんだんと乾き上がり、江戸時代には水田として開拓された。米の豊作を祈って、仙石原(=千石)と名付けられた地名がその名残だ。その後も村の共有草地として利用されてきたが、戦後になって草地の利用もなくなり、ヨシやススキが密生し、樹木が増えてきた。 自然状態でいえば、このまま乾燥が進み、仙石原の湿原はその2万年近い歴史を閉じるのである。 |
![]() そこに「待った」をかけているのが、この花園なのだ。水田跡を利用して、「湿原植生復元実験区」を設け、ノハナショウブが群生する“仙石原湿原”を再現している。水路を引き、水をたたえさせ、濾過装置を使ってわざわざ水の栄養分を貧しくし、本来は一つ所にあるはずのない低層湿原(若い湿原)と高層湿原(晩年の湿原)を同居させている。 放っておけば乾燥してしまう所にミズゴケを詰め、植物を植え、整え、そして、水をやる。これはまさに盆栽である。普通の盆栽は、あの狭い空間に本来は育つべくもない松の木などの植物を、自然条件にあらがって作り込んでいくところに楽しみがあるという。ここの花園は、自然条件のほか、2万年という時の流れにも対抗しているかのようだ。 そう思うと湿原の周囲をぐるりと取り囲む箱根の山々が、巨大な植木鉢の縁に見えてきた。 |
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■箱根湿生花園 ■住所 神奈川県箱根町仙石原817 ■TEL0460-4-7293 ■入園料 大人700円 ■開園期間 3月20日〜11月30日(期間中無休) ■交通 箱根登山鉄道強羅駅よりバス20分「箱根湿生花園」下車。またはバス停「仙石案内所」より徒歩5分。 |
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